実験開始:コードに触らない縛りプレイ

先日のサイトリニューアルに合わせて、ツール群を改めて構築し直している最中です。

元々は自作のツールたちでしたが、今回はあえてAIドリブンで再構築することにしました。理由は単純明快。「自分が用意したものより、UIが洗練されるから」です。

生成AIはClaude Codeを利用。そして、自分に課したルールはこれ:

生成されたコードは読むが、一切自分では手を加えない。プロンプトの指示のみで完成させる。

まさに縛りプレイです。果たしてどこまでいけるのか?

第一印象:期待以上の洗練度

まず、UIについては期待以上でした。確かに洗練されます。

自分で作ったゴリゴリのユーティリティ系UIと比べると、Claude Codeが生成するインターフェースは明らかに今風で美しい。レスポンシブ対応も当たり前のように組み込まれているし、アクセシビリティへの配慮も見られます。

「おお、これは確かにすごいな」

初期の感動は確実にありました。

だんだん見えてくる「Claude感」

しかし、ツールを作れば作るほど、だんだん既視感が芽生えてきます。

どれも似たような「ガワ」になっていくのです。そして、なぜか青や紫のグラデーションっぽい雰囲気を好むようです。まあ、綺麗な色だから良いんですけどね。

この辺りは「Claude Codeで作った感」が思いっきり出てしまうので、見た目のアプローチはまだまだ改善の余地があるでしょう。

まるで、同じデザイナーがテンプレートを使い回しているような感覚です。

単機能ツールなら「ほぼ一撃」の威力

出来上がるものは大抵うまく動作するし、説明なども非常に的確。正直、アシスタントとしては超優秀です。

単機能のコンパクトなツールであれば、ほぼ一撃で期待値の90%くらいのものを上げてくるのではないでしょうか。本当に申し分ない。

「もう大抵のものはこれで良くね?」

そんな気持ちになります。これで満足いくものが完成すれば、それでOKでしょう。

しかし、こだわりの沼に足を踏み入れると…

ただし、「さらに良くしたい」「機能を付けたい」「俺好みに味付けしたい」となると、話は全然変わってきます。

ここから先に行くとなると、覚悟を決めて改めてAIと向き合うことになります。

というか、まるで人を相手にしているのと変わらなくなるんですよね。

プロ vs プロの壁:伝える難しさ

思っていたことと違う時に、「こうして欲しい」ということを相手に伝えて、期待通りのアウトプットを出してもらうのは相当難しい。

自分が素人であれば、それほど精緻な良し悪しの判断はできないから、「すごいな〜」で終わります。

でも、なまじ分野に詳しかったり、こだわりが強くなっていくと、そうではなくなる。プロ vs プロになればなるほど、その溝、ギャップの大きさに気づくのです。

創造的な活動であればあるほど、それは顕著です。

建築家とAIの関係と同じかもしれない

これは、建築、絵画や彫刻などのアート、音楽、文学、演劇、なんなら料理の世界などと、全く同じかもしれません。

一人でできていたものが、作り手が複数になった瞬間、正しく伝えないと形になっていかない瞬間が来るのです。

  • ゴールまで見えている力
  • そのプロセスの段取り力

AIとの一歩進んだ開発では、まさにここが試されます。

AIが全知全能の神様だったとしても、こちら側の伝える力が弱いと全く思い通りの結果が得られない

人間のマネジメント業務との共通点

具体的な作法はさておき、所感としては人間相手に物事を伝えていくマネジメント業務と全く変わらない印象を強く抱きました。

  • 相手の理解度を推測する
  • 適切な粒度で情報を伝える
  • フィードバックを受けて軌道修正する
  • ゴールに向けて継続的にコミュニケーションを取る

まさにプロジェクトマネジメントそのものです。

「仕事を奪われる」を超えた次元

AIによってプログラマーの仕事が奪われる、という話は、もはやそういう次元ではなくなってきています。

生成AIをマネジメントして成果を上げるには:

  • もっと解像度を上げた理解が必要
  • 先を見通す力が必要
  • 明確なゴールをイメージする能力が必要
  • その精度の高さが良し悪しを決める

つまり、より幅広い知識や経験が求められるという結論に至りました。

実戦データ:制作時間と難易度

実際の制作にかかった時間と体感難易度をまとめてみました。もちろん「一切コードに手を加えない縛り」はほぼ守っています。

難易度⭐️:ほぼ一撃の世界

Webフォント比較ツール

  • 制作時間:約10分
  • 指示回数:ほぼ1撃
  • 難易度:⭐️

Favicon生成ツール

  • 制作時間:約20分
  • 指示回数:2〜3撃
  • 難易度:⭐️

画像変換ツール

  • 制作時間:約30分
  • 指示回数:5〜10撃
  • 難易度:⭐️

QuickQR Enhanced - QRコード生成・読取ツール

  • 制作時間:約120分
  • 指示回数:15〜20撃
  • 難易度:⭐️⭐️

この辺りは本当にサクサクと進みます。Claude Codeの得意分野です。

難易度⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️:地獄の始まり

PhotoFlow - 画像解析・編集ツール

  • 制作時間:約5日間
  • 指示回数:100撃以上
  • 難易度:⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

ここで現実を思い知らされました。

80%の完成度と残り20%の正体

個人的には、どのツールも完成度80%くらいの出来だと考えています。普通に使い物になるレベルには到達しています。

では、残り20%は何なのか?

これは、何か物足りなさ、AIドリブンすぎて味付けがインスタントな感じが出ている部分だと思います。

ちょっと使うツールとしては成り立つが、「あと一歩」という感覚。これが技術的なものなのか、企画や製品仕様なのか、少し物足りなさが残ります。

インスタント感の正体を探る

この「インスタント感」の正体について考えてみました。

1. 予測可能性の罠

Claude Codeは非常に優秀ですが、ある種の「予測可能性」があります。同じような問題に対して、同じようなアプローチを取る傾向があります。

これは安定性という意味では良いのですが、「意外性」や「独創性」が少ないという側面もあります。

2. コンテキストの深度

AIは与えられた情報を基に最適解を導き出しますが、暗黙知的な部分、文脈の奥深い理解については、まだ人間に及ばない部分があります。

「このツールを使う人の心境」「使用シーンの微妙なニュアンス」といった部分での配慮が、どうしても表面的になりがちです。

3. 「魂」の不在

技術的には完璧に近いものを作れても、作り手の「魂」のようなものが感じられない。

手作りの温かみ、作り手の個性、ちょっとした遊び心。こういった要素が、どうしても希薄になってしまいます。

未来のプロダクト制作への示唆

この体験を通じて見えてきたのは、AIと人間の役割分担の重要性です。

AIが得意なこと

  • 技術的な実装
  • 一般的なUI/UXパターンの適用
  • 標準的な機能の実現
  • コードの品質担保

人間が担うべきこと

  • 独創的なアイデア
  • 深いコンテキストの理解
  • ユーザーとの感情的なつながり
  • ブランド価値の表現

PhotoFlow開発:5日間の格闘記録

特に印象深かった「PhotoFlow」の開発について詳しく振り返ってみます。

1日目:楽観的スタート

「画像解析・編集ツールを作って」

最初は軽い気持ちでした。単機能ツールがサクサク作れていたので、少し複雑でも大丈夫だろうと。

2日目:現実の壁

「あれ、なんか思ってたのと違う…」

細かい要求を伝えれば伝えるほど、なぜか期待から遠ざかっていく感覚。

3日目:プロンプト地獄

「こうじゃなくて、ああじゃなくて…」

指示の仕方を変えて、角度を変えて、例を示して…。まさにプロンプト地獄の始まりでした。

4日目:突破口の発見

「そうか、一度に全部を伝えようとするからダメなのか」

機能を分割し、段階的に実装していく戦略に切り替え。これで流れが変わりました。

5日目:妥協点の発見

「80%で良しとしよう」

完璧を目指すと、永遠に終わらない可能性があることを悟りました。

AI協働開発の新たなスキルセット

この経験を通じて、AI協働開発には新たなスキルセットが必要だと感じました。

1. プロンプト設計力

  • 適切な粒度での指示
  • 段階的な要求の組み立て
  • コンテキストの効率的な伝達

2. プロジェクト分割力

  • 機能の適切な分割
  • 依存関係の整理
  • 優先順位の明確化

3. 品質判断力

  • AIの出力の良し悪しを即座に判断
  • 修正方向の迅速な決定
  • 妥協点の見極め

4. 忍耐力と柔軟性

  • 思い通りにいかない状況への対応
  • アプローチの変更への対応
  • 長期戦への心構え

「作ること」の価値の変化

AI時代において、「作ること」の価値そのものが変化していると感じます。

従来の価値

  • 技術的な実装能力
  • 効率的なコーディング
  • バグの少ないプログラム

新たな価値

  • 独創的なアイデア
  • 深いユーザー理解
  • 感情的な価値の創造
  • ストーリーテリング能力

残り20%を埋めるために

では、その残り20%を埋めるためには何が必要なのか?

1. 人間らしさの注入

AIが作ったベースに、人間らしい「味付け」を加える工程が必要かもしれません。

  • ちょっとした遊び心
  • 使う人への思いやり
  • 予期せぬ発見の演出

2. 物語性の付与

ツール単体ではなく、それを使う体験全体をストーリーとして設計することが重要です。

3. 継続的な改善文化

AI生成で終わりではなく、使われ方を観察し、継続的に改善していく文化が必要です。

AIドリブン開発の未来予測

この体験を踏まえ、AIドリブン開発の未来を予測してみます。

短期的(1-2年)

  • 単機能ツールの開発は完全にAI主導に
  • プロンプトエンジニアリングスキルが必須に
  • 人間の役割はディレクション中心に

中期的(3-5年)

  • 複雑なシステムもAI協働で開発可能に
  • 「AIマネジメント」が新たな職種として確立
  • デザインの個性化技術が発達

長期的(5年以上)

  • AIが人間の創造性をより深く理解
  • 協働からパートナーシップへ
  • 新たな創造の形が生まれる

今後の課題と展望

技術的課題

  • AIの創造性向上
  • より自然な対話インターフェース
  • 長期記憶とコンテキスト保持

人間側の課題

  • プロンプト設計スキルの体系化
  • AI協働に適したプロジェクト管理手法
  • 創造的価値の再定義

まとめ:AIと踊る未来へ

5日間のAIドリブン開発実験を通じて、多くのことを学びました。

AIは確かに強力なパートナーです。単純なタスクであれば、人間を上回る速度と品質で結果を出してくれます。

しかし、創造的で複雑なタスクになればなるほど、人間の役割の重要性が浮き彫りになるのも事実です。

AIに仕事を奪われるのではなく、AIと共に新しい価値を創造する時代が始まっています。

そのためには、新しいスキルセットを身につけ、新しい働き方を模索していく必要があります。

残り20%の物足りなさも、実は未来の可能性を示しているのかもしれません。

その20%こそが、人間にしか埋められない、最も価値ある部分なのかもしれませんね。


この記事で紹介したツール群は、実際にClaude Codeとの協働で開発されました。皆さんもぜひ、AIとの新しい関係性を探ってみてください。